Photo and words
「夏のベランダ」
ほてったベランダに
ペットボトルで 水をあげる
夜の星が映るように あげつづける
星の話を聞くために 縁台を持ってくる
夜じゅう 静かに 水をはこびつづける
クーラーを 持たない
老夫婦を 連れてくる
眠らない空に あこがれる
野良犬を 連れてくる
誕生日が わからない
野良猫を 連れてくる
喉が渇いて たまらない
隣の大きな犬も 連れてくる
夜は 観客をいっぱいにして
ベランダを よろこばせる
「自尊心の果てに」
自尊心という 心の命を
喉から 手を入れて
毎日 少しずつ少しずつ
はぎ取られてしまい
ぼろぞうきんのように なりました
悲しみの果てに
私は 私であるしかない事を 知るのです
ぼろぼろの心の果てに
私は 私であるしかない事を 知るのです
死んだことが わかって死ねたら うれしい
私は 本当には私であるしかなかった事を 知れるのです
「ためておけない」
せかい とまる
ぼくの もちものは なにもない
とうさんも かあさんも
おうちも ものおとも
ぼくのからだも
なにも ためておけない
「夢をなぞる」
雨は
真夜中を 切り刻んだ
朝陽は
玄関の表札に 立っていた
私は 友の家に 向かう
バスの窓を
柿の実が ロケットみたいに
飛んでいる
友の家の 大きな影が
山の崖を下り
バス停で 首を伸ばして
私を 待っていた
どんぐりのヘタを
投げて遊ぶ カラスが二羽
道の端に 並んでいた
皆 夢をなぞりながら 暮らしている
「とんでみせるなわとび」
おとうさんと なわとび
おかあさんと なわとび
おとうとと なわとび
おやすみのひの なわとび
おでかけさきでも なわとび
りょかんのにわで なわとび
おじいちゃんにみせる なわとび
おばあちゃんにみせる なわとび
カメラを かまえる
おねえさんのおみせで なわとび
ペコちゃんのあめと こうかんで
100かい とんでみせる
みんながみたがる
わたしのなわとび
「やさしいヤギ」
やさしいヤギが おしえてくれました
せかいを うごかしているのは
あなたの ことばです
おはよう こんにちは
たのしいね いいひだね
うれしいよ かなしいよ
だいすきだよ だいきらいだよ
ありがとう ごめんなさい
おやすみなさい いいゆめみようね
さようなら またあした
またあいたい またあえるよ
やくそくだよ わすれないよ
げんきでいようね
みんなが しあわせでありますように
「水槽」
水槽には 靴が沢山浸っている
靴は 水の中をぐるりぐるり 動いている
水は 上方から休みなく 湧き出ている
沈んだままの靴もあれば つま先を軸にして
流れの中でターンを 繰り返すものもいる
水槽には 世界征服のために 集められた
さまざまな靴たちが 浮かぶ
水しぶきをあげないこと
水を汚さないこと
泡をふかないこと
毎日 心臓を洗うこと
そうすれば いまに
爆弾という 安定した命が 授けられ
カラカラとした炎天下に
旅立っていく日が 訪れる
声も息も微笑みも 取りあげられ
涙の一滴も 取り上げられる
命を持って
「山の観覧車」
山並みに 白い霧かかり
朝の車から いつも眺めていた
レジャーランドの 観覧車が見えない
どこに行ったのかな
みんな 雲になっちゃったよ
赤い目で チョコレート一個食べて
消えてしまった観覧車を 見つめる
おかあさんね
帰りは 星より早く迎えにくる
待っていてね