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Photo and words




「母の月」

冬の夜の
生きている 月あかりを
まがった腕の 指先をせのびさせて 
透かして 見ていた

声のない 月あかりは
指先をすべりおり 床に立つと
母の布団にもぐりこんで 
こっそりと 揺れていた

気持ちを持たない 月あかりが
母の寒さを 取りはらい
母を 特別扱いしていた

翌朝 月あかりは
母の庭の 霜柱の底の方で
光の結晶になって光っていた

死んだ母のベッドが
毎朝 ふっくらしている
母の月が もぐっているのではないかと
私に 思わせる




「法則」

しあわせになる ために
桜を見に 公園に行った

しあわせになる ために
四つ葉のクローバーを 探して歩いた

しあわせになる ために
チョコレートを 切らさなかった

しあわせになる ために
厚焼き玉子を 毎日作った

しあわせになる ために
こどもの枕カバーを 手縫いした

しあわせになる ために
母にレースの日傘を 買った

「しあわせになる」

たったひとつの「関心事」が
私の命を 支えている




「主人の庭」

主人の庭で 光がくつろぐ
主人の庭で 影がひそめく

主人の庭で 風がしのぶ
主人の庭で 枯れ笹が朽ちる

主人の庭に くしをとおす
主人の庭に こなをふるう

主人の庭の空を
カラスの 一個連隊がわたる

主人の庭で 精を出し
主人の庭で 老いる




「むなしさ」

ときどき思う 
記憶の外側に
明日がある事を
明日に会えない という事を

自分は乏しく
「今」すら抱けない という事を

心臓は 何の約束も無しに
好き勝手に動く だけだという事を

もし 明日が来なかったら
喜びも悲しみも 無駄だ という事を

願いひとつとして
叶わない という事を

むなしさは
自分が ぼろぞうきんになって
投がっているさま
痛くもかゆくも ない事




「師走」

一年に一回で事足りる乙姫様が 
師走の地球の人々のゴミ出す姿に
胸を打たれた

原っぱの鉄線に囲まれる草も
綺麗に刈り取られ

春に出した私の原稿が
郵便受けに戻って来る

新幹線のホーンが耳鳴りのように続き
飛行機雲は腕まくりをして

年を越すのだろう




「私でいいの?」

私でいいの?
いつもきいてしまう

なんで いいよ、
って言ってくれる

本当に私でいいの?
ってまたきく

愛される自分を 許さない
誰にも 愛させない
愛されない証拠なら 
息つく間もなく 見つけられる

ほら愛されない 愛されるわけがない

さよならの 手をふったら
(私でいいの?)って
いつまでも たずねているのにね







「私の部屋」

なにも無い一日 
私の呼吸がいる部屋
私の音がいる部屋 
亡き父母や
都会の子供達を思う部屋

なにも無い一日 
文字を書いたり 
ご飯を食べたりする机
太陽と月と星が来る机
時間と命が 手をつなぐ 部屋

嬉しくて
悲しくて
優しくて
怒ったりする 部屋

私の命を 分けた 
夢もいる 部屋




「写真のゆくえ」

思い出は ひとりでに歩いている
窓から足のばす 光の長いベール
黒光りの床に 降りてきた

君はどこかで 誰かと結ばれて
長い髪を きりりと結わき
石畳のゆるやかな坂道を
ベビーカーを押して 歩いている

丁寧にもみほぐされた 光の降る
公園のブランコに
子供を抱いて 揺れている
まばゆい声が 土の上に散りばんで
光の桜と バウンドする

いつだったか ネックレスを買いに行き
長い髪の首の後ろに 手を回し
金具を止めている 君の写真を撮った
その写真が ひとりでに歩いている

君に ベビーカーを押させ
君の ゆくえをたどっている



「にんげん」

にんげんは おもいやる

にんげんは しんじる

にんげんは がんばる

にんげんは なく

にんげんは わすれる

にんげんは ことばをはなす

にんげんは  

ひらいているか とじているかしかない


「桜の はなし」

桜のはなしを 聞いたでしょう

一年に 一回 
桜の花びら 水に溶いて
おじいちゃんにも おばあちゃんにも
あかちゃんにも こどもにも
犬にも 猫にも 蟻にも
世界のみんなに
飲み干して もらいたい

桜のはなしを 聞いたでしょう

一年に 一回
桜の花びら 億万枚
ショベルカーに 積み込んで
福島の土に 埋めて欲しい