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「秋のクリスマス」


部屋にろうそくを
たくさん灯そう
クリスマスではないけれど
クリスマスをしよう
足が冷たい夜だから
部屋にクリスマスを描くよ



炎を ひっぱって描くよ
炎を ゆらして描くよ
炎が 描かれている事に気付くとき
そこに 天使がいるよ
その羽で
クリスマスの炎を描いているよ



いつのまにか
頬が 赤くなって 
パソコンのキーボードも
冷たくなくなった
天使が 
クリスマスの靴下を 描いたよ
足が あたたかくなったから
クリスマスを 小さくやろう



「泡をかまう」

よくみたら
泡つぶは
みんなちがう形をしている
奇跡の生きものを
私の手は触っている

手の中でぷつぷつつぶれて
小さくなってきたら
せいいっぱい
泡立てよう
また新しい形に
生まれてほしいから

「泡をかまう」
その事を
心の支えに
する日がある

涙を 喉から流した日

泡をかまう
道端の雑草を
丁寧に摘むように



「ほんとうの明日」

あれは 桜が降る道
手押し車のおばあさんを見つけた

梅雨の道々は
おばあさんは 紫陽花の蕾だったんだ

芝の汗がやけどする 神社公園を
目に 汗を垂らしながら通ったら
おばあさんを見つけた




「写真を撮ってもいい?
私、写真に言葉を付けているの」
「撮ってくれるの、嬉しいな ありがとう」

「インターネットにおばあさんを載せてもいい?」
「私を?どこにでも載せていいよ」




「これね 死んじゃった友達が 描いてくれたの
死んじゃった友達も 載せてくれる?」
「うん、いいよ!」

「死んじゃった友達に 明日が来るね」

「良かった おばあさんに会えて
一緒にパーマ屋まで 歩いて行くよ」



「あなたが生きるために生きています」


あなたは何処にいますか
そこは何ていう所ですか
なぜそこに来たのですか
何を握りしめたいのですか


どんな音がしますか
どんな風が吹いていますか
どんな気持ちがしますか
ここに来て良かったですか
無邪気な気持ちになれましたか


会いたい人に会えましたか
空は何色でしたか
何色の霞を食べましたか
私はデジカメ
あなたが生きるために生きています



「明日 ほほえむために」

カラスは 毎朝ここに来て
カアカア と鳴いている
カラス カラス
私のカラスに なってくれるの?
カラス カラス
ほんとうに それでいいの?
そんな ちいさな事で いいの?


誰かが置いて行った 汚れた軍手
ぐんて ぐんて
今夜は 私の倉庫で
眠りますか?
グンテ グンテ
それとも このまま
誰かを待って
明日また 仕事に行きたいですか?


倉庫の壁の ひび割れと
向かいの倉庫の もぎれそうな手摺りは
顔付きが 似ているのかな?
テスリ テスリ
夕陽の時間に 出掛けて行く
どちらが なぐさめて 
なぐさめられるのかな
交代で なぐさめあっているのかな?



「春を忘れた日」


朝方に小さな誰かがベッドに来る
始めは肩に手を当てるだけだったのに
だんだんと宇宙人のような言葉を
耳にささやいた



不思議な言葉は
桃色のピアノの旋律になって
音色を奏でるようになった


いま いま いつ
あさっては もう来られない

ドクターショッピングに行く
私の後を付いて来て
しまいに手をにぎった


私の手の甲に 
雨の涙を ラリンと落として
小さい春が 願っている



「そばにいるよ」

まよなかは まっくらなのに
だれかが すなを けって 
ぼくのあたまのそばを あるいている
ぼくのこころは ザワザワいうんだよ

おかあさんが そばにいるよ
みえない てを つないでいるよ



きのう まちは たくさんたたかったから
きょうから がっこうがなくなった
きょうは ごはんも なくて
ぼくは おなかがすいてふるえているんだよ

おとうさんが せんとうふくをたたんで
たくさんのたべものを もっていくよ



まちは おはなが つぶれて
チョウチョが てつをなめているの 
いえがこわれて ほこりぞらばかり

きみのかなしみを ひとりにしないよ
かみさまは きみのかなしみを
まいにち さすりに きているよ




「物書きの力」

書き物をする席は
毎日 赤い太陽の
朝陽を 浴びている
青空の糸を 肘に掛けて
一日中 ひなたぼっこをする



時々 生地屋に行って
選りすぐりの 生地を買い
パソコンの机に広げ
手縫いをすると 敷き物が出来る
一枚の「まっさらな場所」に出会う



シャワーを浴びて 寝るとき
夜の机上に 脳みそをパラリと開いて干す 
ベッドにもぐり 目を閉じると
私は宇宙船になって 水平線を抜ける
朝きっかり5時に 私は還る




「きょうの むこう」

ぼくは おかあさんが みていてくれて
よるの おふろに ひとりではいる

おふろの まどむこうの きに
はねをふくらませた フクロウのおかあさんが
あかちゃんを ひざのあいだに だいていた

「しあわせになれますように」
ぼくは おいのりした





わたしは ビニールのなわとびを いっぱいとんであそぶ

アフリカの おんなのこも
ゴムのくろいなわとびを もっていた

どんな あそびをするのかな とおもったら
なわとびを ふたつのバケツにむすび
かたにかけて さばくのつちのうえを
あさからよるまで みずくみにあるいた



ぼくは しんじていることを
いつも おかあさんに はなしている

おかあさんが しなないこと
ぜったいに どこにも いかないこと

おかあさんは びょうきをしても けがをしても
しんでも ぜったいにどこにもいかない
と いつも やくそくしてくれる



「ペットボトルのイルカは」



ペットボトルのイルカは

おぼろづきが のむ

そらのみずのことを しっていました




ペットボトルのイルカは

ほしの ひかりが

ホタルになってあそぶ

あきのよるが すきでした




ペットボトルのイルカは

すいへいせんに ゆうやけが おちたら

みなみのくにの こどもたちが

みえるかもしれない そらをみつめました




「死なないように」


幼い日

夜の空に

細長い 小さな光が

キラキラ またたいていました





腐れた木に 何者かが 卵を産みつけて

3年経って その木が 雲まで伸びて

黄金の虫が 生まれていました



黄金の虫を 取ってこようと 誘われても

腐れた木に 昇ってはいけません




「死なないように」「死なないように」

母は 365日 私に言いました




「ローラースケートをはいた馬」


学校帰りの 木漏れ日の道に
「ぼうけんのとびら」の立て札のトンネルがありました。
犬やネコ 牛やフクロウ ヤギやくまやうさぎ… 
浮き輪を持ったビーバーが 並んでいました。

ローラースケートをはいた馬が言います。
「うす暗いので 私のしっぽをつかんでください」
すると 足にローラースケートが付いて
ザーザーガラガラ走り出しました。




「一滴の水もない 赤い砂漠でも 
凍えてしまうほどの 白い氷河でも
何千日になるかもわからない この長旅にも
あなたがたには 待ち遠しい未来があります」


馬は 高らかな声で 言いました。




「僕の 待ち遠しい未来はなんなの?」


「行きたくない日は 学校をお休みにいたしましょう
やりたくない宿題は してさしあげますから、
私と一緒に あなたの未来に 行きましょう。
あなたは 王様で 家来を連れているかもしれないのですから」


振り返ると でこぼこの動物達が にっこりついて来ます。
ザーザーガラガラ ザーザーガラガラ また進み出しました。





✦(絵は直接関係ありませんが、「緑色の馬」の出版時に
黒岩有希さんが描いてくださったものです)
https://www.instagram.com/yuki_7taka_/?hl=ja

✦(自作絵の「緑色の馬」(未完成)は、完成したものがあります)



「郷愁」


草原の風に吹かれて 発砲スチロールのフタが
パタン パタン カタン カタンと
右に左に 何時間も 草を打っている
もしも 大晦日に お堂で撞いた 鐘ならば
軒に 凍った新巻鮭が ぶら下がっている


ももの花びらを 浮かばせた水の中に
幼い頃の 川遊びが 思い浮かぶ
冷たい川で はしゃいで 唇が紫色になる 
夏の河原の 灼熱の石の上に
バナナを2本乗せて 温めている 


強い朝陽を見た朝は 心がひび割れる 
明治生まれの祖母が 真冬の寒い部屋で
窓から射しこむ 光にくっついて
東から西へ 部屋を渡りながら お針をしていた
夏の浴衣を 何枚も縫ってくれた



「おとぎの国の色」

4月の新緑は 

夜中に 口を空にひらき

空が落とす 春のチリを

朝もやと のみ込む



新年から のみ込んでいるのを

誰も 気づいてくれなくても

「外の景色が 変わった」と

誰が 言っても 言わなくても

自分を 名乗ってはいけない




4月の新緑は 

おとぎの国の色

人間が 覚えなくてもいい色

人間に 知られなくてもいい色

懐古の中で 授かるだけの色




「断捨離」


パソコンの 35年分の「私の作品」が消えてしまった

人生で 一番貧しい と感じた

物やお金の貧しさは とても知っている

死んだほうがいい程の 極貧になった






真夜中は 身体中に

かわいた涙が こぼれ続ける

夢にしても 耐えられない

明日 私はどんな姿になっているだろう





翌朝 私見たさに 私は起きた

「巨大な空洞の私見たさ」に

人が集まるのではないか

やたらに見られない姿なのではないか



そう思うと

面白くて 可笑しくて 得意になった




「わたしは 家猫」

わたしは 家猫
ひきこもりの主人と 二人暮らし

ピザ屋には
「ドアに掛けてって」

弁当屋には
「明日も 日替わりよろしくね」

と言ってあげます



コンビニで リポDと
わたしのレタスも 買って来ます

かつおぶしが 少ないです
アマゾンで 頼んで貰えませんか

電気のヒモ 引っ張って
明るい内に 常夜灯にしてあげます


わたしは 家猫
熊より 鼻が黒く
ヒトデより 背を逆立てます


一日に 一回は
水にうかぶ 蓮の花のように
抱っこしても 損は無いです



「町の天使」


雲のくじらが 潮ふいて
昼は 大きな虹が 出来ました
夜は 虹がうねって 大風を起こし
町が ガタゴト壊れていきました


その女の子は
白つめぐさの冠を 野良猫にあしらいました
雑草を草粥にして 木こりの家族に届けました
山の折れた木を 川のビーバーに何度も運びました
自分の赤い髪を切って ドロボウにあげました


胸に穴が空いたように 
悲しんでいる人々が
その日 丘の上に集まりました


金の羽をつけた 天使の女の子は
羽を皆に 全部あげて 空へ向かいました




「ゆきのあさ」

ゆきぐにの
ゆきのあさ
ゆきがえらんだ
ゆきのいばしょ

ペンギンの
くつぞこが ほしいな

たいようも
ゆきのなか

がっこうも
ゆきのなかに ならないかな

かさも そうおもっているよ

でんせんを たどりながら
まちを いくと
こもれびが おちているよ

こもれびじゃないよ
つららだよ

つららじゃないよ
ゆきだるまだよ




「大人になるとき」

いきなり 大きな事に 打ちのめされるわけじゃない
ある朝 ジャムのビンが 開かないの
学校に行くとき 小雨にあうの




いきなり 大きな夢に 出会うわけじゃない
クリスマスの枕もとに ノートとえんぴつがあるの

いきなり 恋人に 出会うわけじゃない
真っ白な朝もやの おかあさんの台所に会うの





いきなり 大人に なれるわけじゃない
差し伸べられる 両親の手の上で
寝て起きて なるの




「恋友達」

どこにも行かない 移ろわない
一生ふたり 破らない 
帰ると言わない 歩き出さない


やっぱり帰る お腹が空いたの
しゃがんだ 目を 立たせ
小走りで 消える


わたしは どこに すんでいたか?
てるてる坊主か 猫の置物か
水か 氷か コップの縁か?


あのね、空気の柱で 泣いていたよ


しかたないよ 
育ち方も 行くところも 違うんだ
カーネーションと オオカミくらい
バイオリンと スコップくらい
すべりだいと 魚船くらい




「いっしょに」


億万回の まばたきが
声になるまで
いっしょに いるよ



寒いベランダに
ペットボトルの水をそそいで
冬の星をうつして 
いっしょに ながめよう



白いごはんの 光りのかんむり
毎日 そっくり飲み込んで
さよならの 光のテープ
いっしょに もったね




「君なんか」

知らない 君が誰を好きだろうと
聞かない 昨日何したか
言わない 明日何するか
話さない 未来のはなし


ゆずらない 嫌いなもの
もらさない 夢の事
教えない 君を思い出す物の事
使わない 恋 その言葉


歩かない 肩ならべ 
足音も聞かない

君なんか 歯を磨く位の事




「寂しいさん」


「悲しみ」の下に 「怒り」がいます
「怒り」の下に 「寂しいさん」がいます
寂しいさんは 四六時中
半透明のビニールケースを
ぶらさげています 




ケースは 開ける日が決まっています
両親が死んで 兄妹も子供も友も自律して
見渡す限り どこの馬の骨かわからない
天蓋孤独に なった日です




その中には
マグマのように赤々と膨らむ
人肌のやわらかい「拳」が
ひとつ 入っています




「メイ・ベルフォール」

メイ・ベルフォールは 
カフェ・コンセールの 歌うたい
赤ん坊みたいな ひだひだの帽子
ネグリジェのような ピンクのあで着
黒い猫を胸に抱いて ステージにあがると
星のライトが ふりそそいだ




クリスマスの夜も 歌うでしょう 
新年のセーヌの 舟の上でも 歌うでしょう
しろたえ桜の 花の前でも 歌うでしょう
コンコルド広場の 噴水が
涙のしっばねをあげる 革命記念日にも
歌うでしょう



メイ・ベルフォール 
新年に配るちらしを
ロートレックに 描いてもらう



人は 一人では 生きていけないもの
人は 一人で 生きて行っては いけないもの




「光の自動ドア」

光りが そそぎます

わたしから むかいます

すばやく めぐります

地上で いちばん公正な

「光りの自動ドア」です

あなたは 何も気にしなくていい

決して うらぎりません

今日も ほがらかな光を

そそぎました

たのしんで ください




「私の 永遠」(ホークスみよしさんへ)

私の背中で
共にくらしていた「永遠」は  
あるとき
私の心臓を手に持って
天の川に行き
星流に放った

三六五日経って 
流した心臓を手に持って
青い瞳を微笑ませ
帰って来た

一年もの間
私は 誰にも気づかれず
ひとり部屋の中で
命をはずしていた 
と涙を零したら

私の永遠は
「永遠の命と結ばれた お喜びをお伝えしたい」と 
水に溶ける鈴のような音がする 
心臓を 
私に 差し出した





「さいごの とりで」


悲しくて 泣いている心に
あじさいの葉の 朝つゆを
一日中 そそいであげる





苦しくて おきあがれない身体に
あじさいの葉の ベッドを
空気にのせて 
いますぐ 運んであげる




お母さんが死んで
最後の砦が 無くなったあなたに
桃色あじさいのわたしが 微笑んであげる
たった一度だけ
人間になって





「夏の片腕」


カーテンから 目を傾けて覗いている
小さな片腕を たらんとさせて
私が縫った 麻の敷きものを
見つめている





夏の布を買った 生地屋から
私の影帽子の中を ほほえみながら
ずっと 付いて来ていた





「部屋にあがれば」と敷物を置くと
空高い雲の浜で 遊んでいた
もういっぽうの 小さな腕が
夏のお母さんに おんぶしてやってきた




「手持ちのものから」


おとといのことだけど
天が どこにあるかわかったツタは
10カ月分の からだの埃を
咳で たたききがら のぼりだした




育たないあじさいは
鉢の中には
緑の茎が
矢のように旋回している
と はやしたてる 




雪は もう とぎれたと
朝陽をみつけた ガラス玉が
私を振っておくれ と催促する
手持ちのものから 
季節は はじまる




「桜のお墓」


桜の花びらの 吹きだまり

極貧に死す者の 弔いに

ホームレスが 集まっている






五円玉は 落ちていないか

小鳥わらう 朝に

五円玉 ふるまって 逝ったんだよ






桜の花びらの 吹きだまり

静かに 静かに 腕のお墓

桜の朝つゆ 泣いていたんだよ




「作品」


言葉を 文にして
心の家に 棲まわせている
喜んで 悲しんで 汚れて 乱れても
大事に 丁寧に 育てる





文が 美しく整ったときには
大海原の すみっこから
世界に向けて 放たなければならない 
別れなければならない




それまでは どうか
私と手をつないで 私の傍にいてください
私が 心の涙を流したら 心の涙の海で
好きなだけ 漂流してください
ひとり残さず 助けるので




「幸せ係り」


春は 桜の花びらのように お喋りをしよう

夏は 芝のテーブルに ご飯を広げよう

秋は 郵便箱に 雨と もみじを貼ろう

冬は 星達の とんがり靴を ベランダで数えよう





ランドセルの隙間に 入る涙を 全て呼び出そう

笑顔で 心を丈夫に 育てようね






あなたが 旅立つ日まで

私は 幸せ係り




「ためらい」


つたえたい 想いを
ためらわないで
大切なことを
ためらってはだめ




心のことを
ためらわないで
命のことを
ためらってはだめ




この世界は もう
何で止まるかわからないから
ためらわないで
自分を止めないで