気が遠くなる程美しい新緑
母の妹が暮らす湯津上村に行って来た。
「この暖かさでほうれん草が伸びすぎて困っているから取りに来て」と言う。
黒羽生まれの従姉妹を共だって出掛ける。
玄関を開けると、がらんとしている。
「西で作業しています」と広告の裏に書いた小さな案内板があった。
裏に行くと、叔父と叔母が仲良くほうれん草の束を作っていた。
「今日は、お茶を飲まないでやっていたから、丁度良い時間になった」と叔母が言う。
「こっちが飲まないというから、俺も飲めない」と叔父が言う。
縁側に作ったお茶飲み場に腰掛ける。
「この花の名前がわからないからパソコンで調べて来てよ」と叔母が言うその花を、皆が眺め、
叔父の心に「家の近くの古墳が、今掘られている」という花が咲いた話を皆で聞く。
花好きの叔母と従姉妹は、この辺り一帯に咲く「桜」をそらで数えている。
時間がゆっくり流れているという事を感じる。
気が遠くなり、現世を放れるような感覚を覚えてしまう。
ほうれん草が伸びている、というのは枕詞。
私の母の命日に行けないから来て貰い、
お線香の包みと、段ボール一箱の立派なほうれん草を渡したかったのだ。
今日は母の命日。
母と自分の思い出に明け暮れる事はあまりなくなって、
母が愛した人に呼ばれて、
昨日は3軒も連荘で出掛けて行った。
母の妹は、気が遠くなる程美しい新緑を眺めて暮らしています。