「ありがとうアルバム」

この本を自分が手にしたらどんな気持ちがするだろうと、
考えていました。

「人生をつづるあなただけの物語」
私の周りにいる、お年寄りの方にプレゼントして、人生を振り返って頂くという事がどんな事か、
自分にとっては、人生の終焉という事が浮かんでしまい、死がちらついて最初は少し怖くなりました。
それで購入するのをためらったりしました。
私がこの本をちゃんと受け取る事が出来るのかと思ったからです。
けれども、手にしてみなければわからないし、開いてみなければ、何も話す事はできないのだという事を、それ以上に思ったのです。
えほんのがっこうの学友である、作者のみなみまあささんは、身近な社会の事をワークの中の短い時間で物語に落とし込むのに優れた方で、それは誰も叶いません。
彼女は、
「社会性があって、ユーモアのセンスがあって、人想い」彼女が醸し出しているものです。
彼女が描くものならば、私が抱く死の怖さを超えて来てくれるだろうと思い、本を手にしました。



この本は、とても暖かな、昔の製本のような、造り方をしています。
良く見ると、「糸」でかがり綴じになっていました。
この糸を切ったら、パラパラと紙がほぐれて開いてしまう事になると思います。本の天(上)も地(下)も、糸が渡って無い所は、紙と紙の間に指が入るのです。
かがり綴じの本など、今はあまり見た事がありません。

お年寄りの方の、時代背景に寄り添っている本だなと思いました。



開いてみると、なかなか楽しいと感じました。
自分の名前を書く所があります。
お年寄りは、自分の名前を紙に書く場面に、あまり出会わないと思いますし、名前を聞かれる事もあまりないように思います。

それだけでも、この本を持つ事で、孤独ではないと思いました。

歳を書くところだと、自分がいくつだったのかわからなくなったと笑ってしまう方もいるように思います。

私の母は、那須塩原市の「青木邸」に行ったときに、名前を書くところがあり、やっとの事で書けたと思ったら、今度は歳を書くところがあり、そこで固まってしまったのです。どうしたのかと思ったら、「私の歳と母の歳を足すと幾つになるか考えていた」と言うのです。物凄い独自性で、驚いてしまいました。そういうちょっとしたふれあいが、大切な思い出になっています。

名前や歳を聞いてくれる人が、滅多にいないばかりか、
自分と話しをしてくれる人が、周りにいない方もいます。
ディサービスに行くと、人と触れ合えて楽しいと、母は言っていました。

ここには、自分の名前ばかりでなく、両親の名前を書くところもあります。何人兄妹だったのかを書いたりすれば、昔の話しに花が咲きます。
認知症になった母は、昔の事だけは物凄く覚えていました。
家にピアノが無かったので教会に行ってピアノを弾かせて貰ったとか、認知症の検査では3点しか取れない母が、昔の童謡を歌ってくれる事もありました。

又、この本の見返しは、淡い太陽の色、夕陽の色、ヒヨコの羽の色のようで、温かみがあります。
誰かにメッセージを書いて貰う所もあります。


『ご自分でご家族宛に書かれてもいいですね』

この文章を見た時に、
この些細な文の、「家族にあてたものを書く」という所が、「終活の本」のように、この本を持つ方の死を、そこで捉えてしまった私がいました。手にするのを怖がっていた所だと思いました。
最後を意味する本という捉え方もあると思いますし、
そのような目的のものがあるのは確かですが、
この本を、めくっている内に、楽しい思い出があふれ出て来て、自分の死というものさえも、愛おしく思っていたのです。
だから、家族宛に何かを書いてもいい、むしろ書いて置きたいなと思いました。

それで何を書こうと思った時に、一番最初に出て来た言葉が、「●●ちゃん、ありがとう」という息子たちへの言葉です。
人はいつか死んでしまうもの。そこからは決して逃れられないという事を、思いました。これまでは、怖くて思えなかった事です。



「ありがとうアルバム」は、
お年寄りの「元気の豊作」です。耕し甲斐があります。

私がいつも通う、お山の病院にも、併設のディサービスがあり、お年寄りが温泉に入り、お弁当を食べて、お友達とおしゃべりをして、楽しい一日を過ごしている所があります。
この本を、一冊持って行って、
ワイワイと、皆で笑って話して貰えたらいいなと思います。

叔母がひとりで老人施設に入所しているのですが、
コロナ禍で家族やご主人にすら会えない日々を過ごしていて、
話も出来なくなっていると聞いています。
以前に行ったときに、まわらない口つきで、私の名前を「●●●ちゃん」と、言ってくれたので、
また、叔母に会いに行きたいと思いました。

みなみまあささん、本当にすごいものを作られたと思いました。
心から感謝したいです。






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