「犬人間」

行く当ても無く 町を出て
姿知らぬ両親を 星空に見上げて
道を 歩いていたら
電信柱の 電気のもとに横たわる
痩せて抜け毛の
ぼろ雑巾のような犬を 拾った

凍るような石塀で ペットボトルの水や
パンをくだき 口につけてみたけれど
海底の カメの甲羅より 死んでいる

犬を抱いて スーパーの駐車場の
自動販売機に 背をもたげ 膝を立てる
自動販売機の中の 電気の音が 温かい

パンを ひとつまみ 口に入れると
ふと 今日まで 生きてきたのに
どうやって 生きてきたのか
よくわからない
月の色か、黒い犬か、
どんな色が 好きなのか
好きな色が わからない

自分の生かし方も 壊し方も知らない
生きていると 思った事がないのに、
犬の母親でもない 父親でもない
人間の心臓も 犬の心臓も 
見た事も 聞いた事も ないのに、
犬を拾う

ふいに 喉の奥が 煙たくなる
「犬人間」になったようだ
云とも寸とも言わない 
無言の犬と 自分が 
温かく 壊れている




書いた詩を、又直したりしながら、
持っている事が多いです。
もしも、詩の本を出したら、
その時は、もう書き直せませんね。




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